おれはカズヤではない

三島一八という男を知っているだろうか。いや、今となってはカズヤと言った方が良いかもしれない。

大人気パーティゲーム大乱闘スマッシュブラザーズへの参戦が決まった、これまた大人気格闘ゲームTEKKENのキャラクターだ。

 

スマブラ出演においてこのカズヤは復讐心により父親を崖から突き落とすという悪虐非道な面をプッシュされている。恐ろしい男だ。スマブラにエースバーンの参戦を望んでいた小学生やソラの参戦を望んでいた女、果ては成歩堂龍一の参戦を望んでいたおじさんでさえも部屋の隅で震え上がるほどの恐ろしさだ。

 

そしておれはこのカズヤを見る機会が増えてこう思うようになった。「ああ、おれはカズヤではない」と。

 

例えば駅のホームで腹が立つことがあったとしよう。それが割り込みなのか騒音なのかなどはたいした問題ではない。重要なのは「腹が立つことがあった」ということだ。

おれは別に腹が立ったところで多少嫌な気持ちになっておわりだ。しかし、カズヤはそうではないだろう。私怨で父親を崖から突き落としたり北海道を独立国家にしようとしたりするやつは、駅のホームで腹が立ったらその原因を叩きのめした上で線路に突き落とすだろう。

これがおれはカズヤではないと確信する理由だ。おれはどれだけバイト先で客にムカついたり学校で共同研究者が無能だったりしてもけっして顔面に拳を叩き込みはしない。

 

結局のところおれは、おれが丁寧に対応しているにも関わらず訳のわからないことをほざく客に対して「おれがカズヤだったら今頃お前の前歯はひとつ残らず消え失せていただろう」と思うことで気を紛らわせている程度の男なのだ。

そんな心の中で何の意味もない妄想をしているおれは、おれの精神はエースバーンの参戦を心待ちにしている小学生となにも変わらないのかもしれない。